シャープ/プラズマクラスターの作用機序

7　プラズマクラスターの終焉

2012年11月28日、消費者庁はシャープに対しプラズマクラスターを搭載した掃除機に関わる表示について景品表示法違反(優良誤認)で措置命令を出した/56/。

また、同年11月20日、プラズマクラスターが寒天培地上の細菌に有効である場合の活性種が、正負イオンではなくオゾンであることを実証した論文が感染症誌に掲載された/57/。

7．１ 消費者庁の措置命令 (第５１８号)

〔概要〕

(1)対象商品

プラズマクラスターと称するイオンを放出する機器を搭載した電気掃除機７型式

(2) 対象表示

ア表示の概要

(ｱ) 表示媒体

カタログ及び自社ウェブサイト

(ｲ) 表示期間

平成２２年１０月頃から平成２４年４月頃までの間

(ｳ) 表示内容

「プラズマクラスターだからできることがあります。掃除機の中も、お部屋の中も、清潔・快適。」、「ダニのふん・死がいの浮遊アレル物質のタンパク質を分解・除去」等と表示。

イ実際

対象商品は、その排気口付近から放出されるプラズマクラスターと称するイオンによって、対象商品を使用した室内の空気中に浮遊するダニ由来のアレルギーの原因となる物質を、アレルギーの原因とならない物質に分解又は除去する性能を有するものではなかった。

(3) 命令の概要

ア前記(2)の表示は、対象商品の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示すものであり、景品表示法に違反するものである旨を、一般消費者へ周知徹底すること。

イ再発防止策を講じて、これを役員及び従業員に周知徹底すること。

ウ今後、同様の表示を行わないこと。

当該措置命令は、放出されたプラズマクラスターイオンが、室内の空気中に浮遊する粒子のタンパク質を分解するものではなく、優良誤認にあたるというものであり、私が提示した内容と合致する。

英断を下された消費者庁に敬意を表するが、長いスパンで見れば措置命令の出るのが遅すぎたことは否めない。

シャープは11月28日「措置命令を受けるに至った原因は、弊社掃除機(対象機種：EC-AX120 / PX120 / VX220 / AX200 / PX200 / VX300 / WX300)に係る広告表現です。プラズマクラスターの効果の訴求が、掃除機の実使用において、部屋全体に同等の効果があるように消費者の皆様に誤解を与える表現になっていたことによるものです。今般のご指摘は、弊社掃除機の性能についてのカタログ等での表示に関するものであり、プラズマクラスターの性能自体の問題ではありません。また、対象となる掃除機以外の弊社のプラズマクラスター搭載製品の性能について、問題とされているものではありません。プラズマクラスターの効果・効能は、これまで国内外の22の第三者機関で実証頂いております」とニュースリリースした/58/。相変わらずである。12月8日の時点でプラズマクラスターを搭載した掃除機の新製品EC-QX310が性懲りもなくウェブ上に出ていた。ただし、プラズマクラスターを搭載していながらこれに関する記述は一切ない。搭載機器に関する説明がない製品の販売などあり得ないことで、不誠実極まりなく、常軌を逸しているとしか言いようがない。シャープが腐っている証である。

措置命令では、放出されたプラズマクラスターイオンの作用効果は程度の問題ではなく完全に否定されている。実際に使用する際のイオン濃度はカタログ表示程度はあるであろう。そしてその作用が否定されているのである。シャープはこれまで、1立方cm当たり数千から数万のプラズマクラスターイオンが部屋じゅうに広がり、粒子上で正負イオンが反応してヒドロキシラジカルが生成し、タンパク質を切断・分解すると説明し、実験データをその裏付けとして提示してきた。掃除機はその雛型にすぎず、表示のし方は全てのプラズマクラスター搭載機器に共通している。当該措置命令の範疇は、狭義には掃除機であるが、プラズマクラスター全般に及ぶことは明らかである。

これ以上、一般消費者を欺き、当局関係者その他を煩わせるべきではない。なお、シャープが第三者機関で実証したとすることが、正負イオンの作用によるものか、装置から直接発生した活性酸素の作用によるものか、今さらコメントするまでもない。

私は、昨年6月シャープに本HPと同様の内容を送って対応を促したが、一向に改める気配がなく新製品を出し続けた。プラズマクラスターの正体が何であるかは、本HPを見れば分かることである。仮に私の簡略化したモデルによる理論的解明を抜きにしても、誘電体バリア放電(DBD)によって発生する高い活性酸素濃度や、大気中のヒドロキシラジカル濃度は、科学的に平易な知識であり、簡単な沈着フラックスを用いて算出したプラズマクラスターの作用量は無視できる値である。これらからだけでも、シャープの作り上げたプラズマクラスターが、いかに馬鹿げたものであるかが分かる。

措置命令が出ることは消費者庁からシャープへ10月中旬に知らされていたそうだ。しかし、措置命令後にシャープが出したコメントをみると、自ら更生する様子は見えない。シャープは2012年9月に、2000年9月から2012年6月まで世界累計でプラズマクラスター搭載商品4000万台を売り上げ、2016年には1億台を目指すとニュースリリースしている。正気を失った行動としか思えない。このような企業体質では、腐敗部分の伐採しかないだろう。あるいは全て腐っているのかもしれない。

シャープのプラズマクラスターは、大規模な似非科学または詐欺商品として、歴史に名を残すことになった。

妄想を掲げた暴走列車は、すでにポイントが切り替わったことを認めず、いや認めることを欲せずに走り続けようとしている。しかし、その下にもう線路はないのだ。

自浄能力を欠き、未だに暴走を続けようとするシャープをコントロールすることができる、そしてその責務があるのは消費者庁である。

7．２ プラズマクラスター発生装置の活性種が正負イオンでないことを証明した実験

国立病院機構の西村氏は、プラズマクラスター等の有効性試験を行い、2012年11月20日感染症誌に論文が掲載された/57/。

当実験によると、容積14.4m³の実験装置では殺菌作用がなかったが、容積0.2m³の密閉グローブボックスでは培地上の細菌に一定の殺菌作用が認められた。さらに後者実験装置では、イオンを除去しても殺菌能力は変わらないが、オゾン等を除去すると殺菌作用がなくなった。殺菌作用がみられるのは0.06ppm以上のオゾン濃度であり、これは米国環境保護庁(EPA)がオゾナイザーに関して出したコメント(第6章)と符号する。通常の生活空間での殺菌効果は期待できない。

これは、プラズマクラスター発生装置が有効な場合の活性種が、正負イオンではなく、装置から直接発生するオゾン等の活性酸素であることの実験的証明である。

当実験では、プラズマクラスターと寒天培地との距離は30±10[cm]であり、オゾンが主な活性種とみられる。ヒドロキシラジカルは反応速度が大きく、第4章図13及び図14に示すように、時間と空間が広がるとすぐに濃度が低下する。一方、オゾンは濃度の減少率が小さい。プラズマクラスター発生装置が有効である場合の主な活性種は、実験装置の容積が極端に小さい場合や気流が循環する場合はヒドロキシラジカルであり、やや大きい場合はオゾンであるとみられる。ただし、オゾンは健康被害が出ない濃度では微生物に効果がないことを米国環境保護庁(EPA)が指摘していることは先に述べた。活性酸素全般にこのことは言えるであろう。気流を循環させる場合、正負イオンが室内に広がって作用するのではなく、気流が装置内の高濃度の活性酸素の領域を通過する際に作用する可能性はある。ただし、それにも条件があり、これについては次章で述べる。もちろん吹き出し気流は有害であろう。

なお、0.2m³の当該実験装置でも、湿潤なシャーレ培地ではなく、スライドグラスに細菌を塗布して乾燥した状態では殺菌作用がなかった/57/。

西村氏との私信では、プラズマクラスター発生装置の活性種が装置から発生する活性酸素であることを補強する未発表の事象が幾つかあった。

　シャープは本件の後始末とともに、まだ、やるべきことが残っている。それは当該製品の潜在する健康被害を明らかにすることである。似非科学で売り上げた当該商品は、いまだに数千万台が稼働しており、使用状況による健康被害を明らかにし、注意を促すべきである。もっともシャープの信用性は全く無いので、国民生活センターで行われることを望む。消費者庁の措置命令が1年以上たっても出なかったので、国民生活センターに2012年10月1日情報提供し、適切な安全性評価実験がなされることを要望した。